ラトビアのユーロ圏参加予定

 ラトビアは2014年1月1日からのユーロ導入を目指しています。それが実現すればラトビアは,バルト三国ではエストニアに続き2番目のユーロ圏参加国となります。ラトビアがユーロを導入することにはどのような利点があるのでしょうか。ラトビアの自国通貨はラットです。ラットは2004年以降ユーロ相場と固定されるペッグ制をとってきましたが,単一通貨圏に参加することにより,為替レートの変動リスクが完全になくなり,ユーロ圏内での取引に際して両替する手間も不要になります。また,ユーロ圏参加の条件であるマーストリヒト基準(物価・為替レート及び金利の長期安定,財政赤字の対GDP比60%以下など)を満たすことで,ラトビア経済への信用が得られ,国外からのさらなる投資が期待できます。5月30日に,ラトビアのOECDへの加盟手続きの開始が決定されましたが,ユーロ導入も,OECDへの加盟もラトビアの経済に信用をもたらすという点では同様の効果が見込まれます。

 このような利点からユーロ導入に賛成する人々が存在する一方,ユーロ導入によるデメリットやリスクなどに照らして,ユーロ導入に反対する意見もあります。再独立を果たしたラトビア国民にとってのアイデンティティでもあり,親しみのある自国通貨ラットがユーロに置き換わってしまうことへの心情的な未練があり,また,これまでの経験から,ユーロ導入により物価上昇が予測されることも不安材料となっているようです。そして,ラトビアの経済がユーロの行方と密接に結びつけられることや,他のユーロ導入国が経済的な不振に陥った場合に,支援のための分担金を負担しなければならないこともユーロ導入が懸念される理由として挙げられています。これらをユーロ導入の利点と比較し,利点の方が大きいと判断するならばユーロ導入の賛成派,不利な点やリスクのほうが大きいと判断するならば反対派の立場をとるものと考えられます。ラトビアの民間調査会社が行った6月時点での最新の世論調査(4月26日~5月17日に15歳以上の1,020名を対象に実施)によれば,ラトビア居住者の38%がラトビアのユーロ導入を支持,53%が反対という結果が出ています。ユーロ導入支持者の多くは若者で,高等教育を受けた高所得者であり,反対者の多くは高齢者層でした。この結果から推測するに,ユーロ導入の支持者は,ユーロ導入による変化を活用することができる人や,その変化が生活に否定的影響をもたらさない人たちであり,他方,ユーロ導入に反対する人は,これをきっかけとして起こる物価上昇が生活に大きな負担を及ぼしたり,慣れ親しんできた通貨ラットがユーロに置き換わることを感情的に受け入れることが難しいといった人と考えられます。世論調査でユーロ導入を支持しないとする人の割合は減少傾向にあります。2011年1月にエストニアがユーロ導入を実現した際にも,反対派の人達がポスターや集会等を通じてユーロ導入に反対の意見を示す状況がありました。ラトビアでも,大きな問題にはなっていませんが,ユーロ導入に反対する団体が,ユーロ圏参加の是非につき国民投票を実施することを要求したり,憲法に「ラトビアの通貨はラットである」という文言を挿入するよう主張するといった状況が見られます。ラトビア政府は,経済発展のためのユーロ導入の大きなメリットを強調し,ユーロ導入の方針を堅持しており,これまで物価,財政,為替レートの安定や長期金利に関するユーロ圏参加への条件であるマーストリヒト基準を満たすべく準備を進めてきました。その甲斐があり,6月5日には,欧州委員会と欧州中央銀行が,ラトビアはユーロ導入の条件であるマーストリヒト基準を満たしているとする肯定的な内容の報告書を提出しました。今後は,欧州理事会,欧州議会での議論を経て,7月上旬のEU経済財務理事会で,ラトビアの2014年1月1日からのユーロ導入が最終的に決定される見通しとなっています。

 ユーロ導入のための手続きが整いつつある一方,ラトビア政府は今後の対応として,ユーロ導入時の便乗値上げを防止したり,一般市民がユーロ導入について理解を深めていくことに積極的に取り組むとしています。今年10月1日から国内で販売される品物の値札にはラットとユーロの併記を行うことが義務づけられます。ラトビア国内ではいまだにユーロに対してあまりなじみがないのか,民間企業が最近ラトビアの首都リガの街頭で行ったインタビュー調査によれば,ユーロ紙幣の額面を認識していた人はわずか22%で,30ユーロ札や1000ユーロ札があると考えていた人もいました。ユーロ導入に関して市民に広く情報提供を行うため,財務省は専用のインターネットサイト(http://www.eiro.lv/eng)を開設したり,一般の人達の疑問に答えるためのホットラインを設けたりしています。さらに,民間企業の関係者らが,ユーロ導入時に都合よく値上げを行ったりしない,という「覚書」に署名を行うという運動「正直なユーロ導入者」も実施されています。実は,ラトビアで行われているこれらのユーロ導入に向けた準備は,2011年1月にエストニアがユーロを導入した際に行われたものと同様の対応です。ラトビアがユーロ導入対応の参考にしている隣国エストニアでは,上記の対応に加えてユーロ紙幣や硬貨の種類が印刷されたパンフレットがショッピングセンターなどで配布され,首都タリンの中心にユーロの広報センターが設置されました。また,ユーロ導入1ヶ月前の2010年12月には,エストニアのユーロ硬貨の詰め合わせ,「ユーロスターターパック」なるものが販売され,ユーロ導入を前にエストニアのユーロ硬貨を予め手に入れることもできました。また,エストニアでは,ユーロ導入後,ユーロ導入前のエストニア通貨クローンとユーロの換算が容易にできる計算機が国内の全世帯に配布されました。今後,ラトビアではユーロ導入に際してどのような取り組みが行われるのか注目されています。
 

エストニアの首都タリンで2010年9月に欧州中央銀行のトリシェ総裁(当時)らが参加して行われたユーロ導入会議の会場。2011年元旦に,アンシプ・エストニア首相がこの建物のキャッシュ・ディスペンサーから最初のユーロを引き出して見せました。

ユーロ圏を沈みゆくタイタニック号に見立て,エストニアのユーロ導入に反対したポスター。

エストニアでユーロが導入される前の2010年7月から導入後の2011年7月にかけて見られたエストニア・クローンとユーロの価格併記。

エストニアでユーロが導入される前の2010年7月から導入後の2011年7月にかけて見られたエストニア・クローンとユーロの価格併記。

エストニアでユーロ導入前に設置されたユーロの広報センター。

エストニアでユーロ導入前に設置されたユーロの広報センター。

エストニアでユーロ導入後,全国の各世帯に配布されたエストニア・クローンとユーロを換算する計算機。